かつらは、薄毛を隠すためのもの。多くの人が抱くこのイメージは、決して間違いではありません。しかし、その歴史を紐解くと、かつらが単なるコンプレックス解消の道具ではなく、時代と共にその役割を大きく変えてきた、奥深い文化的なアイテムであることが分かります。かつらの起源は古く、古代エジプトにまで遡ります。当時の人々は、強い日差しから頭部を保護するためや、衛生上の理由で髪を剃り、その上にかつらを着用していました。そこでは、かつらは実用的な目的と同時に、地位や身分を示すための装飾品としての意味合いも持っていました。時代は下り、17世紀から18世紀のヨーロッパでは、ルイ13世が若くして薄毛になったことを隠すために着用し始めたのをきっかけに、貴族階級の男性の間で、長くカールした白髪のかつらが大流行します。バッハやモーツァルトの肖像画で馴染み深い、あの荘厳なかつらは、権威と威厳の象徴であり、男性の正装として不可欠なファッションアイテムでした。日本では、江戸時代の武士が被っていた「かつら」とは少し異なりますが、歌舞伎や日本舞踊の世界では、役柄を表現するための重要な小道具として、独自の発展を遂げてきました。このように、かつらは、時代や文化によって、実用品、権威の象徴、ファッション、そして芸術表現のツールとして、その役割を多様に変化させてきたのです。そして現代。AGA治療などの医療技術が進歩した今も、かつらの需要がなくなることはありません。むしろ、その役割はさらに多様化し、洗練されています。薄毛を自然にカバーするという基本的な役割はもちろんのこと、抗がん剤治療などで一時的に脱毛した方のQOLを支える医療用ウィッグとして、あるいは、手軽にヘアスタイルを変えてお洒落を楽しむためのファッションアイテムとして、その存在価値はますます高まっています。かつらは、もはや単に「隠す」ためのものではなく、自分らしさを表現し、人生をより豊かにするための、ポジティブな選択肢の一つへと進化しているのです。
かつらの歴史と現代における役割の変化