私は長年AGAの診療に携わってきましたが日々患者様と向き合う中で最も多く受ける質問の一つがこの薄毛は遺伝のせいでしょうかというものでありその答えはイエスであると同時に遺伝はあくまで条件の一つに過ぎないというのが私たちの共通した見解です。医学的な視点から言えばAGAの遺伝とは主にアンドロゲン受容体の感受性と5アルファ還元酵素の活性度の二点に集約されますがこれらの情報は特定のDNA配列として親から子へと受け継がれターゲットとなる毛乳頭細胞の働きを支配しています。しかし近年のエピジェネティクスという学問の進展により遺伝子の情報そのものは変わらなくてもそのスイッチがオンになるかオフになるかは本人の行動や環境によって劇的に変化することが解明されておりこれが抑制の鍵となります。具体的には5アルファ還元酵素がテストステロンをジヒドロテストステロンに変換するプロセスを内服薬で化学的に封じ込めることは現代医療の最も得意とする分野であり遺伝的な暴走を外から人為的に制御することが可能になりました。また頭皮の血流を改善することで毛包に栄養を届け遺伝的な衰退を防ぐための外用薬や低出力レーザー治療なども非常に有効な補助手段となります。診察室において私たちが大切にしているのは家系図を詳細に把握することでその患者様がどの程度の強度の治療を必要としているかを見極めることでありリスクが高い方には最初から強力な阻害薬を提案し逆に低い方には副作用の少ないマイルドな処方から始めるなど遺伝情報をベースにしたパーソナライズされた医療を提供しています。患者様の中には自分が遺伝的に不利であることを知って落ち込む方もいらっしゃいますが私はいつも敵の正体が分かれば戦い方も決まりますと励ましています。自分の体質を正確に知ることは闇雲に怖がるよりもずっと建設的であり医学という強力な盾がある今の時代において遺伝は決して不治の宣告ではありません。私たちが提供できる最新の治療と患者様自身の前向きな生活改善が組み合わさったとき遺伝という名の激流をも押し戻すだけの大きな力を生み出すことができます。専門医として断言できるのは遺伝に立ち向かうための道具はすでに揃っているということでありあとはそれをいつ使い始めるかという決断にかかっています。一生自分の髪でいられるように私たちは科学のエビデンスを持ってあなたの人生の伴走者であり続けたいと願っています。
専門医が解説する脱毛因子の遺伝と抑制の鍵